トップレスもある! 早く観ておきたい無名のマジックショー3本 2013.5.15
今週は、マジックショー業界を取り巻くきびしい実情と、最近始まったばかりの小規模かつ無名のマジックショーを3本紹介してみたい。
マジックショーといえば、90年代まではラスベガスのショービジネス界の花形的な存在だった。
今でこそシルク・ドゥ・ソレイユが質的にも量的にも他を圧倒しているが、当時、チケットの確保が一番むずかしかったのは、ホワイト・タイガーやゾウを消すなど豪快なイリュージョンで世間を驚かせたジークフリート&ロイで (写真右)、ダフ屋が横行するほどの人気だった。華麗なマジックで観客を魅了したランス・バートンの人気も今では懐かしい。さらにリック・トーマス、スティーブ・ワイリック、ダーク・アーサーといった庶民的な料金のマジックショーもリーマン・ショックまでは全盛を極めた。
しかしここ数年は、いま列挙したすべてのマジックショーは姿を消し、古株組として生き延びているのはマックキング、ペン & テラー (写真右) ぐらいしかいない。
ちなみに大物マジシャンとして名高いデイビッド・カッパーフィールドは今でもそれなりの存在感はあるものの、彼の公演は常駐ショーではなく限られた期間のスポット公演のため量的に目立ちにくく、また仮に常駐ショーとしてやっていたとしても質的な部分でジークフリート&ロイほどの存在には成り得えていなかっただろう。
テレビ界で知名度を上げたクリス・エンジェル (写真右下) も、シルク・ドゥ・ソレイユという人気の看板を背負ってベガス入りしたものの、注目度は今ひとつで、ダフ屋どころか、ディスカウント・チケットショップで値引き販売されることがあるほどだ。
マジックショーが相対的に衰退傾向にあるのはシルク・ドゥ・ソレイユの勢力拡大だけが理由ではない。マジック業界そのものの構造的な部分にも問題があるといわれている。
古今東西、マジックというものは、それほど広くない会場で披露されるのが普通で、ラスベガスも昔は例外ではなかった。
「♪ タラララララ〜」 でおなじみのポールモーリアの名曲 「オリーブの首飾り」 が似合う場面をイメージすれば、マジックショーの会場というものの適正サイズがどの程度のものであるべきか、だいたい想像できると思われるが、一般的にはせいぜい大きくても 500席ぐらいまでだろう。
ところが 1990年ごろに始まった巨大テーマホテルの建設ラッシュが事情を一変させてしまった。3000部屋を超える巨大ホテルにおいては、シアターにもそれなりの規模が求められ、1500席以上の施設が次々に出現、マジックショーもそういった会場で行われるようになった。ジークフリート&ロイがまさにその草分け的な存在といってよいわけだが、それはそれで大いによかった。なぜなら大規模かつゴージャスな雰囲気のマジックショーは当時の観客にとっては新鮮で、新設巨大高級ホテルにはうってつけのエンターテインメントだったからだ。
ところが施設の大型化がマジックの大型化を誘発し、結果的に昨今のマジック衰退の潮流を招いてしまった。
その理由はこうだ。会場が大きくなればなるほど、手からハトやトランプを出すといった小手先のトリックを利用した小規模なマジックよりも (右写真はランスバートン)、トラやゾウ、人体切断、瞬間移動、空中浮遊といったたぐいの大掛かりな装置や仕掛けを使ったマジックが求められるようになり、その種の大きなマジックの発明、開発、製造は個人では困難なため、マジックを作る側と、演じるマジシャン側の分業化が進むことになった。(もちろん今でも自分で発明したマジックを演じているマジシャンがまったくいないわけではないし、かつて分業という習慣がなかったわけでもない)
つまり、それぞれのマジシャンは、マジックを発明した人や企業からその装置や権利を買ってステージで演じるだけになり、資金さえあればマジシャンとしての技術を持たなくても誰でも演じられるという環境ができあがってしまった。
そして大掛かりなマジック作品はそれほどたくさん存在するものではなく、結果的に、限られた数のマジックを、世界中のマジシャンが買って演じるようになり、今ではどのショーを観ても、「このマジックはどこかでやっていたぞ!」 ということになってしまいがちで、それはまさに観る側からすればマンネリ化以外の何ものでもなく、人気が衰退するのは当然のことだ。
とにかくマジックの世界は、マジックをやりたいという人、つまりマジシャンが多すぎるため、マジックを見たいという需要に対して供給過多になりがちで、また、ショーの中で演じるマジック作品がほしいという需要に対しては、発明する側の供給が少なすぎ、結果として、観客需要は大したサイズではないにもかかわらず、多くのマジシャンが、みんな同じようなマジックばかりをやっているという構図が出来上がってしまっている。いわゆる構造不況業種といえないこともない。
解決策は、これまでにだれも見たことがないような全く新しいマジックの開発ということになるわけだが、業界関係者によると、アイデアはすでに出尽くされた感があり、なかなか簡単ではないようだ。
そのようなわけで、マンネリからの客離れで多くのマジックショーが撤退してしまった現在のラスベガスの状況は、マジックファンにとっては観るべきショーがほとんどなくなり寂しい限りだが、それはそこそこ名の通ったそれなりの規模のマジックショーの話であって、超短命で終わってしまうことを承知でやっている小規模なマジックショーならば、今でもたくさん存在しているのでガッカリするのはまだ早い。ざっと数えて10本はあるだろう。なんといっても、マジックをやりたいという人は世界中にいくらでもいるのである。
ではなぜ、採算が取れずすぐに撤退することになるであろう公演をわざわざやるのか。それは、ラスベガスで演じたことがあるという実績を作りたいからだ。
たとえ一ヶ月でもやれば、「ラスベガス公演をやっていたマジシャン」 を自分の肩書きの中に加えることができ、それはクルーズ船などに乗り込むエンターテーナー要因として採用される際の大きな武器となるばかりか、採用後にその人物を売り込むクルーズ船側にとっても都合が良い。
もう一つの理由は、とにかくベガスで公演をしていれば、メディアや関係者の目に止まり、どこかのショーから声が掛かるかもしれない、という期待があるからだ。シルク・ドゥ・ソレイユとまでは言わないまでも、有名なショーの中のたとえ5分でも10分でも出演させてもらえれば大出世ということになる。
そんな意図で現在公演をしている無名マジックショーの中から興味深い3本を紹介してみたい。なお、これらのショーは、「次から次へと参入し、そしてまた次から次へと去っていく」 という昔からエンドレスで続くショービジネス界のサイクルの中でたまたま今現在公演しているショーということであって、一ヶ月後はおろか、来週には消えている可能性もあるので、観たい場合はすぐに行動を起こす必要があることを付け加えておきたい。
◎ Centerfolds of Magic
ダウンタウンのプラザホテルで毎晩深夜11時から始まるマジックショー、18歳未満は入場不可。
マジシャンとして登場するのは、セクシーな4人のダンサーと、プレイボーイ誌のモデルにもなったことがあるという主役兼司会役の Taya Parker の合計5人で、なんと全員がトップレスになる。
なんとも男性諸氏には目の保養になるセクシーなショーだが、驚くのはまだ早い。トップレス女性を観るだけではなく、さわれるというから驚きだ。それも手や足ではなくセクシーな尻を両手でさわることができる。
もはやマジックショーという次元を通り越し、アダルトショーといってもよさそうだが、観客全員がさわれるわけではないので、それを楽しみにしている者は、過度な期待は禁物だ。司会役の Taya が、観客の中から一人の男性を選びステージに上げ、そこでの掛け合いの中で、「なに遠慮しているのよ。さわりたいんでしょ。もっといやらしそうにさわっていいのよ!」 と声をかけ、男性が彼女の尻をなでまわすわけだが、観客の数は 50人もいないはずなので、目立つようにしていれば選ばれる確率はけっこう高いかもしれない。
マジックそのものの演目としては、よく見かける人間切断や、箱のなかに隠れたトップレス美女が瞬時に入れ替わるなど、仕掛けモノが中心で、小手先を使ったマジックはほとんどない。マジックショーとしてはトークの部分がけっこうあるので、多少の語学力はほしいところだ。
合間に出てくるコメディアン Joe Trammel 氏が、音楽に合わせて踊りながら演じる 「モノマネ 20連発」 は必見。
入場料は $31.35 で 1ドリンク付き。ボックスオフィスは、プラザホテルのチェックインカウンターのすぐ横。
◎ Tommy Wind a Unique Magic & Music Experience
自称 「ミュージシャン」 が演じるマジックショー。場所は The Boulevard Theater で、火曜日を除く毎日 6:30pm 開演。入場料は $49.99。
この聞きなれない会場は、モンテカルロホテルの向かい側にあるドラッグストア Walgreens と、ハンバーガーショップ Fat Burger の間の路地を奥に進んだ突き当りにある。
「ミュージシャンでありマジシャン」 を売りにしているところが異色で興味深いところだが、ミュージックとマジックは独立した別のものとして披露され、音楽演奏がマジックの中の要素であったりするようなことは基本的にない。つまりマジックの合間に、ときどき音楽を演奏するというだけのことで、両者は互いに無関係。楽器の種類は豊富でドラム、ピアノ、バイオリン、エレキ、ハーモニカと多彩だ。
マジックは、オートバイで突然現れたり、回転するプロペラを通り抜けるなど、スティーブワイリックがやっていたものが大部分。テーブルの空中浮遊などはランスバートンがやっていたものとまったく同じだ。
仕掛けや権利を買ってきて演じているだけのマジシャンかと思いきや、トランプを次から次へと出すなど、小手先の器用さもあり、マジシャンとしての勉強や練習をかなりしてきていることがうかがえる。
父親と母親がアシスタントとしてたびたび登場するところも、経費を節約したファミリービジネス的でほほえましい。
◎ Comedy Magic Adam London
ダウンタウンの Dホテル (かつてのフィッツジェラルズホテル) の2階のシアターで毎日午後4時に始まるコメディー・マジックショー。入場料は $19.95。
演じている主役はユタ州ソルトレイクシティーからやって来たという愉快なマジシャン。主役といっても、他にいるのは音響担当者だけ。
コメディーマジックというだけあってトークの部分がかなりあり語学力が求められるという意味ではとっつきにくいが、このショーで披露されるマジックは、独創的でおもしろい。
ステージが非常に狭く、大掛かりなマジックはスペース的に不可能となっているため、基本的にはすべて小技のマジックで、そのほとんどは客との掛け合いの中で披露される。これまでに見たことがないものが多く、マジックマニアにとっては大いに興味深いのではないか。ただ一般の人にとっては、いかんせん会場施設がみすぼらしく、ラスベガスらしいゴージャスさなど微塵もないので、場末風な雰囲気が好きではない人にはおすすめできない。