個人的に好きな落語に「天狗裁き」というのがあります。
で、この話の落ちにマジックを思いついてしまいました。
思いついたら、やらずにはいられない。困った性分で、その日のうちに池袋演芸場でやってしまいたくネタを作ります。お客様が「天狗裁き」を知らないとまったく緊張感の無い手品になってしまう、マニアックすぎる!でもやらずにいられない。
そのことを池袋の楽屋で話していると、私の前に上がる
春風亭百栄師匠がその噺「天狗裁き」をやってくれるのでした。なんて、やさしい人なのだろう!これで安心して思いついたネタができます。それはこんな手品でした。
天狗様、実は大のバクチ好きでトランプを普段から持ち歩いている。しかし持ち歩くのはスペードだけ♠きっと、お使いの葉団扇に形が似ているからであろう。この愛用の♠トランプを持ち出して、八五郎とバクチをしようと思いついた天狗だった。
天狗は13枚のスペードから3だけを取りだして、
大天狗「この3より大きな数字をお前が取れば、これだけひどい目を見てきたおぬしに褒美を取らせよう、なんでも好きな夢を叶えて進ぜよう。大天狗にウソはない。しかしだ、もし3より小さな数字、2を取ったら、おぬしの魂を天狗がもらう。Aは一番大きな数としてやろう、どうだやる気はあるか?」
八五郎さん考えた。つまり負ける確立は12分の1しかない。12分の11の確立で好きな夢が叶えられるのだ。見てもいない夢を話すより、かなえてもらいたい夢を話す方が良いに決まっている。それも天狗が叶えてくれるというのだ。八五郎さん俄然やる気をだした。
八五郎「やります。やらせてください!」
大天狗「そうこなくっちゃ!よし3はこちらに置いておいて、これ以外のトランプをよく混ぜろ、混ぜたらその中から2枚を天狗の前に置け、この二枚のうち一枚を除いてしまう。残りの11枚を天狗にかしてみろ。今度はわしが二枚出すからそのうちの一枚をおぬしが取り除くのじゃ。もちろん表をみてはいかん。よ〜く考えるのだぞ。それ、やってみろ」
このようにして、天狗と八五郎さんはまるでロシアンルーレットのような緊張の中、一枚ずつ交互にトランプを除いていき、八五郎の手元には一枚のトランプだけが残った。
大天狗「一枚になったな。それがおぬしのトランプじゃ、運命のトランプじゃ。見せてみよ」
八五郎がおそるおそるトランプをめくるとそれは・・・。
ガーン「スペードの2」
大天狗「わしの勝ちじゃ。おぬしの魂もらった!!」
大天狗の鼻がぐわーと伸びて八五郎の口に入り、もがき苦しんでいると。
「あんた。あんた。だいじょうぶ?」
八五郎「なんだ夢か」汗をぬぐおうと懐から手ぬぐいを出すとそこからスペードの2がポロリ。
原作:カール・ファブス「Speak of the Devil」
日本語訳:松山光伸 東京堂出版だと思います
勝手に演出:ダーク広和